高市首相が全18閣僚に
手渡した指示書の全容
共通指示と個別指示を完全解説
責任ある積極財政
暮らしを守る
責任ある日本外交
序第2次高市内閣発足の背景——なぜ指示書が注目されるのか
高市早苗首相は2026年2月18日、衆参両院の本会議での首班指名を受けて第105代内閣総理大臣に就任し、第2次高市内閣を発足させた。今回の選挙では自民党が単独で3分の2超の議席を獲得し、前回選挙の237票から350票超へと信任が大幅に増加した。これは戦後でも例を見ない強い民意の付託といえる。
そうした背景の中で高市首相が全18閣僚に手渡した指示書は、単なる「方針書」の域を超えている。各大臣に対して番号付きの具体的な任務を列挙し、担当大臣同士の協力関係や、いつまでに何をするかを明確に記した「経営指示書」の性格を持つ。これは日本型行政の「各省庁の自律性を重視する慣例」から、首相官邸が政策の細部まで主導する「トップダウン型統治」への転換を示す重要な文書だ。
指示書は「全閣僚共通指示」と「各大臣への個別指示」の2段構えになっている。共通指示は「①強い経済の実現」「②地方を伸ばし、暮らしを守る」「③外交力と防衛力の強化」の3本柱で構成。個別指示は各大臣の所管業務に応じた番号付きの具体的な任務リストとなっている。
1共通指示①「強い経済の実現」——積極財政・消費税減税・予算改革
指示書の冒頭、高市首相は自らの政治哲学を次のように表明した。
日本と日本人の底力を信じてやまない者として、「日本列島を、強く豊かに」する。そのため、今の暮らしや未来への不安を希望に変え、強い経済を作る。世界が直面する課題に向き合い、強い外交・安全保障を構築する。22世紀を迎える多くの今の若者・子供たちのために、安全で豊かな日本が、「インド太平洋の輝く灯台」となり、自由と民主主義の国として頼りにされるよう、この度の総選挙において国民の皆様から頂いた力強いご信任の下、内閣の総力を挙げて、以下の政策を推し進める。
— 高市首相 全閣僚共通指示書 冒頭(2026年2月18日)
「危機管理投資」と「成長投資」を軸とした積極財政
経済政策の核心として指示書は「危機管理投資」と「成長投資」の2本立てを打ち出した。様々なリスクや社会課題に対して、官民が手を携えて「先手を打って行う危機管理投資」により、日本経済の強さを取り戻す成長戦略を加速・軌道に乗せることを全閣僚に求めた。
財政の持続可能性には常に配慮しつつも、「責任ある積極財政」の考え方の下、戦略的に財政出動を行うことにより、暮らしの安全・安心を確保するとともに、所得を向上させ、消費マインドを改善し、税収を増加させる。
民間投資を促すため、政府予算の予見可能性を高める観点から、予算編成の在り方を抜本的に見直し、補正予算ではなく可能な限り当初予算に必要な予算を計上するとともに、複数年度の財政出動をコミットする仕組みを構築する。
供給力の強化に向けて、内需の拡大とともに、外需の拡大が重要であることから、外国のカウンターパート(閣僚)との会談では、相手国市場のニーズを把握するとともに、日本産品の導入を働きかけ、その内容を内閣全体で共有する。
注目:予算編成の抜本的見直し——「補正予算頼み」からの脱却
今回の指示書で新たに追加された最重要項目の一つが「予算編成の抜本的見直し」だ。これまで日本政府は本予算の不足分を補正予算で補う「補正予算頼み」の財政運営を続けてきたが、指示書はこれを明確に改めるよう求めた。
| 項目 | 従来の慣行 | 指示書が示す新方針 |
|---|---|---|
| 予算の組み方 | 当初予算を絞り、補正予算で補う | 補正予算ではなく当初予算に計上 |
| 財政出動の期間 | 単年度主義 | 複数年度のコミットメント仕組みを構築 |
| 海外閣僚との会談 | 外交・安保が中心 | 日本産品のトップセールスを全閣僚に義務化 |
| 消費税 | 維持方針 | 飲食料品の消費税減税・給付付き税額控除の検討 |
注目:飲食料品の消費税減税と給付付き税額控除の検討
指示書は物価高・手取り増加対策として「飲食料品に係る消費税減税や給付付き税額控除の検討を含めた物価高・手取り増加対策」を明記した。食品の消費税率引き下げは、選挙公約でも大きな訴求点となっていた政策で、今回初めて閣僚への正式な指示として文書化された意味は大きい。
指示書は経済安全保障の強化・食料安全保障・エネルギー資源安全保障・国土強靱化・サイバーセキュリティー対策・健康医療安全保障・人材総活躍・「新技術立国」という8つの柱を列挙。この中でも「新技術立国」は高市政権の最も象徴的なキーワードで、AI・量子・核融合・宇宙といった先端技術分野への官民投資拡大を意味している。
2共通指示②「地方を伸ばし、暮らしを守る」——DX・外国人共生・災害対応
地方の「暮らし」と「安全」を守るため、地域ごとの産業クラスターの形成、地方のDX化の推進、地場産業の強化、地域公共交通の維持に取り組む。
外国人との秩序ある共生社会の実現に向け、総合的な対策を推進する。組織犯罪対策等を講じ、治安の維持・向上を図る。
万一、大規模な自然災害、テロ、感染症など、国家的な危機が生じた場合、国民の生命と財産を守ることを第一に、政府一体となって、機動的かつ柔軟に全力で対処する。
東日本大震災、能登半島地震を始めとする大規模災害からの復興に全力を尽くす。
産業クラスターと地方DX——東京一極集中の是正
「地域ごとの産業クラスターの形成」は、特定地域に集積する産業・人材・研究機関を結びつけ、地域独自の競争力を高めることを意図している。シリコンバレーのような産業集積を地方で実現することが目標だ。地方のDX化推進と合わせることで、東京一極集中に歯止めをかけ、地方からの人口流出を抑制する効果が期待される。
「外国人との秩序ある共生社会」——治安との両立
増加する在留外国人をめぐる課題について、指示書は「秩序ある共生社会の実現」という表現でまとめた。単純に外国人の受け入れを拡大するだけでなく、治安の維持・向上と組織犯罪対策を同時に推進するという両面的なアプローチを示している。衆院選でも外国人政策は争点の一つとなっており、この表現は慎重に選ばれたものだ。
人口減少が進む地方において、バスや鉄道など公共交通機関の廃止が相次いでいる問題に対し、指示書は「地域公共交通の維持」を明確に位置づけた。高齢者や免許返納者が安心して生活できる移動手段の確保は、地方の「暮らしを守る」上で不可欠の課題だ。国土交通省への個別指示でも具体的な取り組みが示されると見られる。
3共通指示③「外交力と防衛力の強化」——責任ある日本外交・拉致問題
日本の国益を守るため、外交力・防衛力・経済力・技術力・情報力・人材力を含む総合的な国力を強化しつつ最大限活用し、我が国の平和と安全、繁栄、国際社会との共存共栄を実現する「平和と繁栄を創る『責任ある日本外交』」を展開する。
日米同盟を基軸に、同志国やグローバルサウス諸国との外交・防衛・経済等の多角的な連携を拡大し、各国が自律性と強靱性を強化できるよう、「自由で開かれたインド太平洋」の取り組みを戦略的に進化させる。北朝鮮による拉致被害者の早期帰国に全力を尽くす。
我が国の主体的判断において、防衛力の抜本的強化を図る。
政府のインテリジェンス機能の抜本的強化に取り組む。
「責任ある日本外交」という新たな名称の意味
高市首相は今回の指示書で、外交政策に「平和と繁栄を創る『責任ある日本外交』」という固有名称を冠した。これは単に外交・防衛力を高めるだけでなく、経済力・技術力・情報力・人材力を含む「総合的な国力」を活用して国益を実現するという総合外交戦略の宣言だ。自由と民主主義を守る「インド太平洋の輝く灯台」になるという表現とあわせて、日本の国際的な役割を明確に打ち出している。
拉致問題——「取り組む」から「全力を尽くす」へ表現強化
北朝鮮による拉致被害者問題について、第1次内閣の指示書では「拉致被害者の早期帰国に取り組む」という表現だったが、今回の第2次内閣では「早期帰国に全力を尽くす」へと表現が強化された。わずかな言葉の違いに見えるが、政権の意志の強さを示す重要な変化だ。
| 外交・安全保障項目 | 第1次内閣(2025年10月) | 第2次内閣(2026年2月) |
|---|---|---|
| 外交の総称 | (固有名称なし) | 「責任ある日本外交」と命名 |
| 日米同盟 | 日米同盟を基軸 | 継続(変わらず基軸) |
| 拉致問題 | 「早期帰国に取り組む」 | 「早期帰国に全力を尽くす」(強化) |
| インテリジェンス | 記載なし(または簡略) | 「インテリジェンス機能の抜本的強化」を明記 |
| 日本産品トップセールス | 記載なし | 全閣僚に外交の場での日本産品導入働きかけを指示 |
4注目の個別指示——主要閣僚への具体的な任務
共通指示に続いて、各閣僚には担当省庁の所管に応じた個別の任務が番号付きで示された。以下では特に注目度の高い閣僚への指示内容を解説する。
- 国家安全保障会議のもと国家安全保障政策を一層戦略的・体系的に実施
- 民生技術の防衛目的活用、防衛生産・技術基盤の強化
- 戦略3文書や防衛装備移転3原則の運用指針の見直し
- 自衛官の社会的地位向上を含む処遇改善、人的基盤の強化
- CPTPPの加盟国拡大・自由で公正な経済圏の拡大に取り組む
- 関税措置に関する日米間合意の実施を含む米国との調整
- ソフトパワー外交の強化と戦略的対外発信の拡大・深化
- 領土・領海・領空の警戒監視・情報収集で防衛相と緊密連携
- 海外在留邦人の保護、あらゆる緊急事態への迅速対処
- 「責任ある積極財政」のもと経済成長戦略の推進
- 給付付き税額控除の制度設計を含む税と社会保障の一体改革
- 複数年度の財政出動コミットメント仕組みの構築
- 資産運用立国の推進、人的投資・インパクト投資の促進
- 原発再稼働の加速・次世代革新炉・核融合エネルギーの推進
- 「責任ある積極財政」のもと経済成長戦略の推進
- 福島第一原発の廃炉管理を担当
- 先端半導体・AI・量子・宇宙などへの官民投資促進
- 旧姓の単記実現に向けた検討(法相と連携)
- 少子化対策・子育て支援の充実
- 中低所得者の負担軽減と少子化対策の充実に向けた国民的議論の推進
- 人口減少・少子化を乗り切るための社会保障改革
- 心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討
- リ・スキリング・デジタル技術活用で労働生産性向上
- 意欲ある高齢者の就労支援、望まない非正規雇用をなくす改革
- 賃上げに向けた環境整備の加速
旧姓単記——少子化相と法相への異例の連名指示
今回の指示書で特に注目されたのが、少子化対策担当大臣と法務大臣の両者に対して「旧姓の単記」実現に向けた検討が同時に指示されたことだ。選択的夫婦別姓については与党内でも意見が割れており、これまで正面から政府として取り組む姿勢が示されにくかった。今回の連名指示は、少なくとも「旧姓の法的な単記(公文書などでの旧姓使用の制度化)」という形での前進を図る意思表示と見られる。
復興大臣への個別指示には「福島の復興なくして東北の復興なし、東北の復興なくして日本の再生なし」という高市首相が繰り返してきた言葉が明記されている。「復興再生土」の全国的な利用推進、復興庁による司令塔機能の強化、帰還困難区域の避難指示解除に向けた取り組みが具体的に盛り込まれた。被災地優先の姿勢を政策文書として明確化した意味は大きい。
官房長官・内閣府大臣への指示——サイバー・AI・宇宙
官房長官・内閣府担当大臣への指示には、サイバーセキュリティー戦略本部に関する事務、国家公務員制度・行政組織に関する事務などが含まれる。また、宇宙基本法に規定する宇宙開発担当相の職務、グローバル・スタートアップ・キャンパス構想に関する事務も明記されており、新技術立国を推進するための体制が官邸主導で整備されていることがわかる。
5第1次指示書との比較——何が「新たに」加わったか
第1次高市内閣(2025年10月)の指示書と比較すると、第2次での主な追加・変更点が浮き彫りになる。
6指示書が示す「トップダウン型政治」の意義と課題
「各省庁の自律性」から「首相官邸主導」へ
今回の指示書が異例なのは、その具体性の高さだ。従来の内閣発足時の「大臣への申し送り」は抽象的な方針を述べるにとどまることが多かったが、今回は番号付きの具体的な任務リストが各大臣に手渡された。これは日本の行政文化における「各省庁の自律性を重んじる慣例」から、首相官邸が政策の細部まで主導する「トップダウン型統治」への転換を意味する。
強い民意の付託を受けた安定政権だからこそ可能に
安定した政権基盤がなければ、ここまで具体的な指示書を出すことは政治的に難しい。自民党が単独で3分の2超の議席を得て成立した第2次高市内閣だからこそ、こうした踏み込んだ政策指示が可能になった。一方で「白紙委任状を得たとは思わない」と明言した高市首相は、維新との連立継続・野党との対話も継続する方針を示している。
指示書への評価は割れる。「財政の持続可能性に配慮しつつ積極財政」という表現は、財政規律派から「矛盾している」と批判される一方、積極財政派からは「成長なくして財政再建なし」という高市首相の哲学の表れとして評価される。単年度主義の克服と複数年度財政出動コミットメントは、企業の設備投資を促す効果が期待される半面、予算膨張へのハードルが下がるリスクも指摘される。
注目:労働時間規制の緩和——「健康・選択を前提」の意味
厚生労働省への個別指示に含まれた「心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討」は、現行の「原則週40時間・残業規制」を柔軟化する方向性を示している。「従業者の選択」という表現が鍵で、希望者が自らの意思で長時間働くことを選べる仕組みを検討する、という解釈が一般的だ。高度専門職・フリーランス・管理職などへの適用拡大が想定される。
7まとめ——日本はどこへ向かうのか
第2次高市内閣の指示書が示す日本の方向性を一言で表すなら「強さと豊かさの両立」だ。経済では積極財政・消費税減税・新技術立国、安全保障では防衛力の抜本強化・インテリジェンス機能強化、地方では産業クラスター形成・DX推進——いずれも一次元の課題解決ではなく、複数の政策を組み合わせた総合的なアプローチだ。
指示書の最も重要なメッセージは、22世紀を見据えた長期的な国家ビジョンにある。「22世紀を迎える多くの今の若者・子供たちのために」という言葉が示すように、高市政権は目先の選挙対策だけでなく、数十年単位の国家設計を意識している。「インド太平洋の輝く灯台」という表現は、日本が単に生き残るだけでなく、自由と民主主義の国際秩序において積極的な役割を果たすという意欲の表れだ。
一方で、積極財政・防衛費拡大・消費税減税が同時並行で進む財源問題、労働時間規制緩和の労働環境への影響、外国人共生政策の具体的な制度設計など、指示書が示した方向性の実現には多くの課題が待ち受けている。今後の法案・予算審議の中で、これらの指示がどのように具体化されるかを継続して注視していく必要がある。
◆ 指示書の要点まとめ(全18閣僚共通指示+主要個別指示)
- スローガン:「日本列島を、強く豊かに」「インド太平洋の輝く灯台」——22世紀を見据えた長期的国家ビジョン
- 経済:「責任ある積極財政」のもと危機管理投資・成長投資を推進。補正予算頼みをやめ当初予算に計上する抜本的見直しを指示
- 消費税:飲食料品の消費税減税・給付付き税額控除の検討を全閣僚に共通指示として明記
- トップセールス:外国閣僚との会談で日本産品の導入を働きかけ内閣全体で情報共有——新たに全閣僚への義務として追加
- 新技術立国:経済安全保障・食料・エネルギー・サイバー・健康医療・AIなど8分野を柱として列挙
- 地方:産業クラスター形成・DX・地場産業強化・地域公共交通維持を4本柱として指示
- 外交:「責任ある日本外交」と新命名。日米同盟を基軸にグローバルサウスとの多角的連携も強化
- 拉致問題:「取り組む」→「全力を尽くす」と表現強化。安倍元首相の遺志を引き継ぐ強い意志の表れ
- 防衛:戦略3文書・防衛装備移転3原則の見直し、民生技術の防衛活用、自衛官の処遇改善を防衛相に指示
- 旧姓単記:少子化相と法相への連名指示で「旧姓の単記」実現に向けた検討を指示——注目の新規項目
- 労働:「心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討」を厚労相・規制改革相に指示
- 復興:「福島の復興なくして東北の復興なし」——復興再生土の全国活用・帰還困難区域解除への取り組みを明記
読売新聞「高市首相の全閣僚への共通指示と個別の指示の内容」(2026年2月19日)/日本経済新聞「閣僚向け指示書全文」(2026年2月18日)/日テレNEWS NNN「第2次高市内閣 首相から閣僚への指示が明らかに」(2026年2月19日)/首相官邸「令和8年2月18日 高市内閣総理大臣記者会見」/首相官邸「令和8年2月18日 第2次高市内閣の発足」